ニュース

《前編》髙谷幸「フェミニズム・クィア視点から入管体制を考える」──入管体制と人生の管理

2024/06/02

 去る2024年2月11日、アジア女性資料センターは「フェミニズム・クィア視点から入管体制を考える」と題したワークショップイベントを行った。

 イベントではゲストスピーカーとして、髙谷幸さん(社会学者)、宮越里子さん(デザイナー)、リモートで仮放免者のAmbeyさんをむかえ、会場・オンラインの双方で参加者による活発なディスカッションが交わされた。

 本記事は、このイベントでの髙谷幸さんの発表を前・後編にまとめたものである。以下の前編では、「入管体制」や「在留管理制度」がいかにして人々の人生を管理しているのかをお話しいただいた。

 

★ワークショップイベントの開催報告はこちらから!

発表をする髙谷幸さん

髙谷幸さん

 

◆イントロ

 みなさんこんにちは。髙谷と申します。私からはこの「フェミニズム・クィア視点から入管体制を考える」というテーマでどういうふうに考えられるかという全体的なことを、発題のような形で素材提供をしたいと思います。

 私は入管や日本の移民についての研究をしてきました。そのなかで移民女性の研究もしています。なのでこのテーマに関心は持っていましたが、難しそうだなと避けていた面もありました。今日はみなさんと一緒に考える機会にできたらと思っています。

 

◆入管体制とは

 入管体制という言葉は「出入国在留管理庁による外国人管理の総体」をあらわす言葉で、1970年代くらいから使われるようになりました。これは占領期の入管令に起源があり、外国人と治安管理をむすびつける発想(※1)からつくられ、維持されてきました。そして今に至ります。

※1 外国人と治安管理をむすびつける発想は、私たちの身近にもしみついている。例えば、外国人が起こした事件がニュースになるたびにSNSなどで「日本は治安が悪くなった」という根拠のない話が盛り上がるケースなど。

 入管体制は、実際の外国人の生活に様々なレベルで作用しています。外国人にとってとくに大きな意味を持つのが〈在留資格〉と〈在留管理制度〉です。これらは〈出入国管理及び難民認定法〉いわゆる入管法のなかに定められています。入管庁が外国人を管理するときの主な手段がこれら3つです。

 まず日本に暮らしている外国人には在留資格が付与されることになっています。それは日本国籍を持っている人にとってはなじみがないものかもしれません。しかし外国人の場合は、持っている在留資格の種類によって日々の活動(※2)に強い制約がかかります。「なにをやっていい」また「どれぐらいの期間やっていい」ということが在留資格の種類によって決まっていて、明示的あるいは非明示的に、さまざまなかたちで実際の日常生活が制限されるのです。

※2 ここでいう活動とは、日本国内で生活をするときにおこなうこと全般を指すが、入管がチェックするのは主に「仕事」と「学業」(留学の場合)である。在留活動。

 

◆在留管理制度とは

 つまり〈在留管理制度〉というのは、[在留資格によって外国人の生活を制限することで]「日本という社会空間において外国人がいるべき位置と期間を定め、その位置に応じて行為や関係性、権利、自由を制約する制度」だと言えます。

【図1】それぞれの在留資格の強さ

 

 【図1】は、それぞれの在留資格が持つ強さを図にしています。〈日本国籍〉を頂点として、その下に全部で30以上ある在留資格が序列になっています。最も安定した在留資格は〈永住者〉です。また在留資格がない人も「在留資格がない」ということをもって在留管理制度のなかに組み込まれています。例えば仮放免者はその典型で、在留資格はありませんが「仕事をしてはいけない」などの制約・管理を受けています。

 このように、在留資格によって進路選択や仕事、出産や子育て、県外への移動(※3)など、本当に生活のひとつひとつに制約がかけられています。つまり、これは外国人の社会移動やその選択に影響し、ひいては人生の可能性をも制限するというのは想像に難くありません。社会移動とは仕事でのステップアップや職業移転、学校を卒業して仕事をすることなど、ライフステージの移動のことです。

※3 仮放免の人には就労の禁止のほか、居住県外への移動も制限されている。

 例えば日本国籍の人だったら、学校を卒業してまだ進路が決まっていないから、ぷらっとアルバイトしながら考えてもいいかな?みたいなことを考えますね。日本国籍者にはそういう選択肢が当たり前にある。一方で、外国籍者にはその「当たり前の選択肢」が制限されている。留学生の場合、就職活動の期間は1年くらいであれば伸ばせますが、それでもやはり次にやる仕事の内容が、次に与えられる在留資格に合った内容でないと日本にいられなくなります。将来を想像するときにまず「在留資格はどうなるんだろう」ということから苦慮しないといけないのです。

◆後編ではいよいよ、入管体制がどのようにジェンダーやセクシュアリティと関係しているのか、在留資格や家族帯同を認めない技能実習制度の問題からお話しいただきます。最後には、現在国会で審議されている、永住許可の取り消し法案が女性移民におよぼす影響も示されます。

 

★後編はこちらから!

 

 

◆筆者紹介

髙谷幸(たかや・さち)

東京大学大学院人文社会系研究科教員。専門は社会学・移民研究。著書に『入管を問う—現代日本における移民の収容と抵抗』(共著、人文書院、2023年)、『追放と抵抗のポリティクス—戦後日本の境界と非正規移民』(ナカニシヤ出版、2017年)、『移民政策とは何か—日本の現実から考える』(編著、人文書院、2019年)、『多文化共生の実験室—大阪から考える』(編著、青弓社、2022年)など。

DOCUMENTS