アドボカシー・キャンペーン

【メッセージ】「外国人が来るから賃金が下がる」へのもやもや(竹信三恵子/ジャーナリスト)

2025/07/19

「外国人が来るから賃金が下がる」へのもやもや
ジャーナリスト 竹信三恵子

参議院議員選挙の投開票日がいよいよ明日7/20になりました。アジア女性資料センターでは、この選挙を通じた排他的な言説の広がりに反対し、「参院選に向けた緊急メッセージ集」を発表しました。このキャンペーンの一環として、ジャーナリストの竹信三恵子さんのメッセージを許可をいただいてご紹介いたします。明日の参院選、そしてその後の政治を見る視座として、ぜひご一読ください。
また竹信さんにご登壇いただいた、参院選を見すえて開催した院内集会のアーカイブは7/22(火)まで
無料公開しています

 

 

 今回の参院選は、私たちの社会の大きな分岐点になりそうです。多くの党が、物価高対策として、手取りを増やす、減税をする、と言っています。コメまでが値上がりし、生活苦が高まっている今、税や社会保険料を減らして使えるお金を増やしたい、という気持ちになるのはよくわかります。その中で、そうした苦しさの原因として、「賃金の安い外国人労働者が来るから日本人の賃金が下がる」と主張する政党も相次ぎ始めました。

この言葉に、どこかで聞いたことがある、とずっと思いながら、もやもやしていました。そして、思い出しました。ちょっと前まで、この社会では「オンナは賃金が安いから、オンナが働き始めると男性の賃金が下がる」とか、本当に言われていたのです。

あれ? 賃金が安いのは、女性は安くても構わないとか、夫がいるから大丈夫だろうとか言われ、重要な仕事をしていてもこれをきちんと評価してもらえなかったり、安い仕事でも黙って引き受けて当たり前とか思われていたりしたからでは? 

そんな疑問を持ち、同じ仕事をしているなら同じ賃金をと、一般職の女性やパートの女性などが裁判を起こし、仕組みを変えていったのが1990年代ごろからでした。

外国人の賃金が安いとすれば、それは、外国人だから安くても仕方ないという見えない仕組みがあるからでしょう。また、社会に必要なのに、日本人が手を出さない仕事を引き受けてくれている外国人の労働者もたくさんいます。その人たちは、人手不足のこの日本で普通に働いて経済を支え、税金も社会保険料も払っています。手が足りなくて困っている中小企業や、少子化が進む農村部の人たちに聞いてみると、外国人の働き手に来てもらって定住して地域にも貢献してほしい、という声が、実は少なくありません。それを排除すれば、回るはずの産業が回らなくなり、経済が悪くなり、私たちの賃金はもっと下がるでしょう。

本当に必要なのは、まじめに働いていれば生活を確保できる最低賃金の引き上げや同一労働同一賃金では? そう言うと、「また、それ?」「新しくないな~」という声が聞こえてきそうです。

でも、政治はコメと違って、新しければいいというわけでもないんです。政治は、わかっていても難しくてなかなか実現できなかったことを、知恵を絞って少しずつでも実現させていく営みでもあるのですから。

賃金が低い人をさらにたたくとか、そんなことは、もうやめた方がいい。罪を犯す人がどこかにいたことを理由に、まじめに働いているだけの別の人を非難するのもやめた方がいい。私たちの社会の立て直しは、そこから始まるんじゃないのか――。投票日を目前にして、そんなことを考えています。

 

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